さしがねの知恵

さしがねとは、大工さんの三種の神器ともいえる道具のひとつで、
L字型のシンプルなこの定規が、
実は知恵の塊なのです。

このコラム集は、そんな大工さんのさしがねにちなんで、
昔ながらの知恵や工夫を、今の暮らしに生かそうというコーナーです。

四季を感じることのできる暮らしや、
多少手間はかかるけれど
豊かな暮らしとは何か?というコラムや、
それ以外にもちょっとした住まいのお手入れ方法などもご紹介していきます。

第14話 ~ 引き戸のはなし

いきなりの質問ですが、
各部屋の出入口にある戸は、開けている時が普通?閉めている時が普通?どちらと感じますか?

 

開き扉は、パタンと閉まっているときに納まっていると感じますよね。
開きっ放しにしたいときは、戸当たりについているフックで固定しなければ、
ふらふらしてしまったり、風でばたんと閉まってしまいます。
そういえば、子供のころ、「戸が開けっ放し!」とよく怒られたものです(笑)

 

では引き戸は、どうでしょう?

私たちが住まいを計画する際に、各部屋の出入口の戸に極力引き戸を使うようにしています。
閉めたときが標準である開き扉と違って、
引き戸の場合は、基本的に開けたときの空間を基準に考えています。
必要な時に閉めればよい。という考え方です。

 

 

昔と違って断熱性能がよくなり、家全体が寒くない住まいでは、戸を開け放しておいても、廊下が寒いということはありません。
では、戸を開け放しておくことでどんなよいことがあるでしょう?
まずは、風の通り道を計画することで、家全体の風通しがよくなります。
また部屋が仕切られないことによって、広々とした空間が得られます。

 

 

でもWCや洗面所は隠しておきたい!と思うかもしれませんが、
開けた時を標準で考えているので、開けっ放しでも自然な空間です。

 

 

窓からの光や眺めも取り込むことができます。

 

 

また開き扉と引き戸の大きな違いとして挙げられるのが、間口です。
同じ大きさの戸で比べると、開き扉の方が7~8センチぐらい有効開口寸法が狭くなってしまいますが、引き戸の場合は、全開口でき、すっきりさせられます。

それに開き扉の場合は、戸の軌跡部分にはものが置けませんが、引き戸の場合は、その制約がありません。

・・と数え上げたら、いいことづくめなのです。

 

いいことばかり書いたら不公平なので、注意点も少し書いておきましょう。
開き扉に比べ、引戸は隙間が大きく、気密が取れないという点があります。
廊下が寒くないと考えれば、この点は解決しますよね。
玄関などに用いる場合は、計画に工夫が必要です。

後は、引き代が必要ということもあります。
開いているときに戸が納まるスペースのことです。
これも計画で解決できることです。

 

日本の昔ながらの引戸文化から、住宅が洋風化して開き扉が主流になりましたが、ここのところ、そんな引戸のよさが見直されてきているのです。

 

 

 

そんな視点で、ぜひ次回の建物見学会を体感してみてください。

(関 文子